2007年04月09日
地図にはないオホーツクの村からの提案
小清水町の止別川沿いにひろがる雑木林の中に「オホーツクの村」はある。ここは地図には表示されていない村だ。つまり、架空の村なのだが、村民たちは日本全国に確かに存在している。
二十数年前、現在「オホーツクの村」がある雑木林を伐採して畑にする話が持ち上がった。オホーツク海にほど近い場所にある森は原生林ではなく、北海道のどこにでもあるシラカバ、ヤチダモ、カラマツなどが植生する人工林。しかし、そこには多くの種類の野鳥とキタキツネ、エゾリス、モモンガなどの動物たちが暮らしていた。
「貴重な自然ではないけれど、人の営みの近くにある身近な自然を守ることはできないか」と立ち上がったのは、映画「キタキツネ物語」の動物監督を務め、多くの著書を持つ獣医の竹田津実さんを中心と地元の有志たちである。そして「小清水自然と語る会」を結成し、雑木林を買い取るための資金を広く全国に募る。日本のナショナルトラスト運動の先駆けとこの試みは多くのメディアに取り上げられ、寄せられた賛同資金によって、止別川沿いの森は買い上げられ「オホーツクの村」が誕生した。村民は賛同資金を寄せてくれた日本全国の人々である。
当初は「動物たちの暮らす、ありふれた自然の保護」を目的とした「オホーツクの村」の活動は、やがて「自然の復元と生産」という目標にステップアップしていく。
「人が自然に踏み込むだけで、何からのダメージを与えてしまいます。例えば、登山やカヌーなどで自然を楽しむことは、同時に自然を消費することなんです。世界遺産に指定された知床でも多くの観光客が押し寄せることによって、自然は消費されているでしょう。『オホーツク村』では自然を保護するという立場から一歩踏み出して、消費に見合う自然の復元の生産をしようと活動しています」と村長を務める加藤利久さんはいう。
そのため「オホーツクの村」では計画的に植林を実施し、さらにエキノコックスの駆虫薬を散布する活動も行っている。動物を媒介に人にも感染するエキノコックスを駆除することで、農民の健康を守り、同時に農産物の安全を確保し、風評被害を未然に防ぐのが目的だ。
「オホーツクの村」では身近な自然を守ることの大切さを子どもたちに教えるためのセミナーも開催している。集まった子供たちは森の中の散策路を駆け回り、ツリーハウスに登って歓声を上げ、セミナーハウスの前の人造湖でカヌーを体験する。
「いきなり子どもたちに自然を保護することの大切さを訴えても説得力がありません。まず、身近な自然の中で遊ばせて、その面白さや不思議を教えることから始めるべきではないでしょうか。自然の復元と再生という言葉には、森を再生させるだけではなく、人間と自然の関係性も取り戻すことを含んでいます」
かつて日本のどこにでも存在した身近な自然の里山は、人と自然の緩衝地帯として機能し、子どもたちはそこで様々な遊びを覚え、同時に自然の怖さも学んだ。しかし、土地開発によって里山が皆無になりつつある現在の日本では、自然は特別なもの、非日常的な存在になりつつある。「オホーツクの村」の活動は、貴重な自然の保護だけを重視する風潮に警鐘を鳴らすと同時に、これからの人と自然との関わり方に新たな指針を示している。(く)






